「ね、ちょっとあなた。すぐに救急車呼んで」
私の背後にいる男性のお仲間たちを振り返って、近くにいた男性に声をかけた。

「え?俺?」
そう、あなた!あなたよ。
「早くして」
一瞬、私の鋭い視線に驚いたようだけれど、すぐにスマホを取り出し救急車を要請している。

すぐに救急隊が到着して、幸い隊員の中には救急救命士もいた。
意識レベルや頭痛、嘔吐、左片麻痺があることなどを伝えて私は立ち上がった。

「あなたも一緒に付き添いをお願いします」と言われたけれど、現場で処置をしている間に意識レベルは回復して男性は会話が出来るようになっていたし、ナースは必要ないだろう。救急救命士もいるからお断りをした。

救急車には1人しか同乗できない。
「私は知人ではないので、こちらのお友達にお願いしてはどうでしょうか」と背後の4人に視線を送った。

「え?あなたはお友達じゃなかったんですか?」
隊員の1人が驚いたように言う。
「ただの通りがかりで」苦笑する。
「あなたもずいぶん汚れてしまいましたね」と使い捨ておしぼりとペーパータオルをくれた。

そう、さっきの嘔吐で膝から下、ストッキングとパンプスが汚れてしまったのだ。
背後では「いやー、汚い」と女性2人の声が聞こえていたけれど振り向きもせずもちろん無視。
でも、これじゃタクシーにも乗れないか。

「病院で連絡するから。こっちをよろしく」「ああ、わかった。真人を頼む」

そんな声がちらっと聞こえた。
一緒にいた男性のうちのひとりが救急車に同乗するのが決まったらしくストレッチャーと共に歩き出す。
よかった、付き添いも決まったみたい。

この女性たちの中に恋人はいないらしい。
倒れた男性を避けるようにして見ているから。

でも、友人じゃないのかしらね。
ただ一緒に飲んでいただけってことか。
薄っぺらな関係。

どっちにしても私には関係ないけど。