「父が高齢になって会長職からも引退することになりまして、私は工藤の会社に戻ることになりました。土曜日はお嬢さまにそのご挨拶をするためにホテルに行っていたのです。井原さんのガードが高くて安堂の者でもなかなかお嬢さまにはお会いすることができなかったものですから」

元林さんが修一郎さんを見てクスリと笑った。

「すみません」と修一郎さんが小声で謝る。

「いいえ、お嬢さまを鳥かごから出していただいて感謝しています。この先もお任せしてよろしいですか?それとも、私が工藤の家にお嬢さまを連れて行ったほうがよろしいですか?」

「工藤の家にとはどういう意味でしょう?」

修一郎さんが眉間にしわを寄せる。

「パーティーでの井原さんと片岡ジュエリーの娘とのやり取りでうちのお嬢さまはとても傷ついております。あちらで片岡の娘に『キズモノ』扱いもされたとか。
私と一緒ならお嬢さまをそんな目に遭わせませんが?井原さんがうちのお嬢さま以外にいい方がいるのならお嬢さまは私が工藤の家に連れて行きますよ。
私は圭介様からも安堂の社長からも信頼は厚いですし。何せ三日間も二人きりでいたくらいですから」

元林さんの口から信じられないような言葉が次々と出てきて呆然としてしまう。

「元林さん何言って・・・」

修一郎さんも元林さんの挑戦的な物言いに驚いたようだけど、すぐに眉間によせたしわをさらに深くした。

「ノエルはそんなに軽い女じゃありません。例え、彼女の現在過去に何があったとしても俺はノエルを離さないし、ノエル以外の女に興味はない。小さい頃からノエルの世話をしてくれていたそうですが、俺はあなたにもノエルを渡す気はありませんから」

はっきりとそう言って、立ち上がると

「ノエル、帰るよ」

と私に向かって右手を出した。