「お嬢さま、圭介様がお見えになる前に少し話をしませんか?」

急に元林さんの雰囲気が変わった。

「うん、いいけど。…何かあった?」

「お嬢さまのこれからについてですよ」

私の身体が固くなる。

これからの事っていうのは、これからの生活のことだよね。

「お嬢さま、緊張なさらずに」

元林さんは笑う。

「お嬢さま、今朝はお嬢さまの手を握ってしまったまま私も寝てしまい申し訳ありませんでした」

そうだった。
私は目覚めた時に元林さんの手を握っていた。

「ううん、元林さんにずっと看病してもらってたんでしょ。本当にありがとう。心配かけて、迷惑かけてごめんなさい」

「私のことはいいですよ。手を握っていたのは・・・お嬢さまがうなされて『修一郎さん、行かないで』とおっしゃって私の手を握ったからなんですよ」

えー、は、恥ずかしい!
私、そんな事しちゃったんだ。

「もしかして、私がずっと元林さんの手を握りしめてて、それで元林さんは動けなかったとか?」

元林さんはゆっくり頷いた。

「ああーもう、恥ずかしくて死にそう。なんでそんな事しちゃったかな。ホントにごめんなさい。寝ぼけてる私なんて振り払ってくれてよかったのに」

「お嬢さまに泣かれて私にそんなことができるはずはありませんよ」

おまけに泣いたのか。最悪だ。穴があったら入りたい。

「私は少しだけ嬉しかったんです。お嬢さまに好きな人ができたと知って」

元林さんの言葉に顔を上げた。

「昂輝さんとのことがあってからというものお嬢さまは男性とは距離を置くようになっていたように思います。そのうえ、あの事件です。老婆心ながらも私はお嬢さまがこの先、男性と恋愛関係が築けるのかと心配していたのです」