「元林さん・・・」

彼は私が小学生の時から実家の運転手としてうちで働いてくれていて、私もよくお世話になっていた。

習い事が嫌だったときや、親に叱られた時にかくまってもらったこともある私にとってただの安堂家の使用人ではない。優しい年の離れたお兄さんのような存在だ。

確か元林さんがうちで働き始めたのが25才位。
今は40才位だろうか。

「お嬢さま、そんなに泣いて・・・どうしたんですか」

私は気が付かないうちに走りながら泣いていたらしい。

「元林さん・・・私・・・」

「お嬢さま、とりあえず、私の車に」

ドレス姿で走ったせいで裾が乱れ、ヘアスタイルも乱れ、泣いたせいでメイクも崩れているのだろう。
このままではタクシーに乗るのも恥ずかしい。言われるがままに元林さんと共に足早に地下に向かうエレベーターに乗り込んだ。

「今日は本家の車の調子が悪くて私の私用車ですがよろしいですか?」

「か、構いません。もちろん」
私はぐずぐずと鼻をすすっていると元林さんがハンカチを差し出してくれた。

身体一つで逃げ出した私はありがたくお借りする。

「ありがとう。いつまでたっても元林さんに甘えてばっかりだね」

「いいんですよ、お嬢さまはそれで」

昔と同じ笑顔で微笑んでくれた。

地下駐車場に着いて元林さんに連れられて歩いて行くと大型のSUV車が停まっていた。

「私の車です。どうぞ」

促されるまま後部座席に乗り込んでホッと息をついた。
今は圭介にも会いたくない。
圭介は私のことをANDOの恥だとは思っていないだろうけれど、世間的にはそうなのかもしれない。

運転席から元林さんがボトルに入ったコーヒーをくれた。

「ありがとう」

昔もよくこうして飲み物をもらったっけ。
昔はコーヒーが飲めなくってココアか玄米茶だった。