「あんた、何を言ってるんだ」

地の底から響くような低い声で圭介が片岡さんににじり寄った。

そんな圭介を{待て」と修一郎さんが止める。

その声に私は顔を上げて修一郎さんを見た。

「何で止めるんですか。ノエルがこんなに侮辱されているのに。あなたはこんなのを許すんですか!」

「そういうわけじゃない。だが、片岡さんの主張をもう少し聞いてみたいと思って」

修一郎さんは平然として片岡さんに笑いかけたように見えた。

「この際だから、他に言いたいことがあれば言うといいですよ」

その言葉に片岡さんは嬉しそうに顔を輝かせた。

「私と修一郎はこの件が片付いたら正式にお付き合いするのよね。このところ父と何度も打ち合わせしていたんでしょう。その発表はいつになるのかしら?」

その言葉を聞いた途端、私はショックで逃げるように駆け出していた。

いやっ、なんなの?
どういうこと?
確かに修一郎さんはこのところ外出が多かった。
スケジュール管理はお義兄さんの仕事だからどこに行くかなんて聞いていない。
まさか片岡さんのところだったなんて。

私を庇うどころか笑顔で片岡さんと話をする修一郎さんの姿を見て衝撃を受ける。
もう限界だ。

「圭介君、ノエルを追って!」

後ろで修一郎さんの声が聞こえた。

私が出て行っても、追いかけてくれるのは修一郎さんではない。修一郎さんは片岡さんと一緒にここに残るんだ。
そう思ったら余計に辛くなり、走るスピードを上げた。

後ろではガラスの割れる音と周囲のざわめき、圭介の声が聞こえる。

「うわっ、ノエル、待て!行くな!」


それを無視してパーティー会場を飛び出し廊下を走って角を大きく曲がったところで

「お嬢様っ!」

と大きな声で呼び止められた。

「ノエルお嬢さま!」

聞き覚えのある声に立ち止まり声のした方に振り向くと、実家の運転手をしている元林さんが驚いた顔をして立っていた。