「申し遅れました。私は井原修一郎といいます。入院している阿部真人の古くからの友人です」
サッと渡された名刺を見ると『IHARAホテルグループ』の文字が。

IHARAホテルグループ
国内有数のホテルチェーンだ。
離島のリゾート、山奥の温泉宿、都会の一等地の高級ホテルなど各種宿泊施設だけでなくマリーナやアリーナスタジアムなんかも持ってるんじゃなかったかな。
とにかく世界的に有名な企業であることは間違いない。

この人はそこの専務であるらしい。
同じ井原ってことはもちろん血縁者だろう。

「で、井原修一郎さん。興信所を使ってまで私を探す理由とは何でしょう」

「へえ、君はこの名刺を見ても驚かないんだね」
井原さんはにっこりとした。

「いいえ、じゅうぶん驚きましたけど」
私も微笑み返した。

「ますます気に入ったよ」
「え?」

「桐山絵瑠さん。真人が世話になったお礼と汚してしまった服や靴のお詫びをさせて下さい」
井原さんは笑顔を引っ込めて真面目な顔をして私に頭を下げた。いや腰から状態をきっちり曲げて最敬礼の姿勢をとったのだ。

「えっ、ちょっと井原さん!頭を上げて下さい」

こんな所で最敬礼だなんて何てことをする人なの。私は慌てて井原さんを止めた。