修一郎さんと一緒にあちこちに挨拶をしていると、圭介がやって来た。

「久しぶりだな」
見慣れた圭介の優しい笑顔にほっとする。

「圭、少し痩せた?そんなに忙しいの?」

私が声をかけると圭介は苦笑いして修一郎さんをちらっと見てから私に向き直る。

「エル、ずいぶんとお前は修一郎さんに甘やかしてもらってるんだな」

「え?」
甘やかしてもらっているってどういうことだろう?
確かにいつも守られてるって思うけど。

「うん。ずいぶんお世話になってる。たいした仕事もできないのにね。それに、お給料ももらっちゃってるのに家賃も食費も払ってないの。こんなに甘えてダメだよね」

私はIHARAグループの本社で働いているけれど、会社に所属しているのではない。修一郎さんの私設秘書。私の仕事は修一郎さんと個人契約している秘書という扱いだ。
必然的にもらっているお給料も会社からではなく修一郎さんのポケットマネーから。

いらないって何度も言ったけど、修一郎さんは支払うって譲ってくれなくて。
じゃあ生活費を払うって言っても聞いてもらえず現在に至る。

「お前は大事にされてるんだな」
呆れたような圭介の言い方に引っかかる。

「どういうこと?」
圭介と修一郎さんの顔を交互に見た。

圭介はわざとらしく眉間にしわを寄せて、修一郎さんは笑っている。

「ね、何?何なの?」

「今回の事業提携の一環としてうちのホテルでしか飲めないお酒の開発を頼んでいるんだ」

修一郎さんは私にそれは綺麗に笑いかけた。

「ノエルにはベタ甘の修一郎さんだけどな、俺との仕事はガチで厳しいんだぞ。俺たち双子なのになー」

圭介が冗談交じりに愚痴る。

「そ、そうなんだ。私、何も知らなかった。新しいお酒の開発してるんだ」

「それも、一種類じゃない。しかも、いろいろ条件が厳しい」

「圭介君がANDOの副社長なのに夜にあのお店で働いていたのってお酒の勉強のためなんだろ?その経験を十分役立ててもらわなきゃだな」

口を尖らす圭介に修一郎さんはからかうように言った。
それから二人で楽しそうに話し始めた。

二人は私の知らないところでいろいろやり取りをしているみたいだ。しかも、二人の関係はいいらしい。