テーブルに置いた麦茶が零れて、
陸の制服を濡らす。


私は唇を拭うと、陸を見つめた。


「なんで・・・」


「・・・・・悪い」


「なんで・・・
 なんでこんなこと・・・」


「だから、悪いって。魔がさした」


魔がさした??それだけ?


それだけでこんなことするの?



「だからって・・・
 す、好きでもない人にこんなことする?」


「・・・そうだよな。
 何やってんだ、俺」


そこは否定しないのね。



“好きでもない人”の中に私がいる。



わかってるよ。わかってる。


陸の中に私なんかこれっぽっちも
いないこと、知ってるよ。


だからこそ、余計に傷付く。


魔がさしただけの、


寂しさを紛らわすためだけの、


こんなんじゃ、ただの道具じゃん。


都合のいい女じゃん。





「陸の馬鹿!!」




私はそう言い残すと、
すぐに陸の部屋を飛び出した。


泣きたい。

泣きたいけど、
泣いたら惨めになるだけ。


陸は、唯にもあんな
キスをするんだろうか。


あの、屋上でみた時のように、


優しいような、
激しいようなキスをするんだろうか。


もう陸は、私を好きだと
言ってはくれないんだろうか。


そう。

そうよね。


だって、





だって私は嘘つきだもん。




嘘つきだらけの恋だったもの。