自分のこの感情が“恋”
なんだと知った途端、胸が苦しくなった。


もう、1年前には戻れない。


記憶を失くした陸は、
もうここにはいない。


『若葉』


私をそう呼んでくれた陸は、
どこにもいない。


どこを探しても、私の知っている
陸はいなくなってしまった。


唯と一緒に生きる陸を、
虚しい気持ちで眺めるだけになってしまった。


私はこの時初めて、
私のついた“嘘”を悔やんだ。


陸と再会していなければ、
私があんな嘘をついて
彼女のフリなんかしなければ、


きっとこんなにも
傷つくことはなかったはずなのに。


いつの間にか高校1年生も終わり、
気付けば2年にあがっていた。


あれから陸とは話していない。


隣には常に、唯がいる。


何たる偶然か、2年生のクラスは
陸と同じクラスになってしまった。


私はB組。唯はF組になって、
なんだか複雑な気持ちで2年の春を迎えた。


「お、おはよう、陸」


「・・・・誰?」


「私、二宮若葉だよ。
 陸の・・・-っ」





“彼女だよ”



なんて、この期に及んで今もまだ、
嘘をつこうとする自分がいる。


「陸の、友達・・・」


私はとっさにそう言い換えた。


すると陸はやわらかい表情を見せた。


「おう、そっか!
 よろしくな。二宮」



“二宮”と呼ぶ陸。


もう私のことを
名前で呼んではくれないのね。


そう思うとまた胸が
締め付けられるような感覚に陥る。


私の心は、常に
急降下するジェットコースターみたい。


ちょっと浮かれて上昇しては
一気にどん底まで落とされる。


私はもう、高望みはしない。


これでいいんだ。これで。


幼馴染でも彼女でもない、友達。


それだけでもいい。
陸のそばにいたい。


そう思うようになった。