「お母さん、急いでー!」
「わかってるわよ。
もう少しじっとしててちょうだい」
せっかくの夏祭りだし、
女の子っぽくしてみたい。
お母さんに着付けをしてもらいながら、
自分で髪の毛をまとめる。
時計を見ると5時半を過ぎたころだった。
「はい、出来たわよ」
「ありがとう、お母さん」
「でもねえ、アンタが
浴衣を着るなんて、珍しいわね」
「そ、そう?」
私がお母さんから視線を逸らすと、
お母さんはくすっと笑った。
「彼氏?」
「うるさいなー!陸と行くの」
「陸?陸って、高木さんの?」
「そうだよ。今はもう、佐々木だけど」
お母さんはびっくりしたような顔をして、
しばらく黙り込んだ。
もう。
急いでる時に限って、足止めを食らう。
「お母さん?」
「なんでもないわ。気を付けて。
あまりハメをはずしちゃだめよー?
まだ高校生なんだから」
「わかってるー!行ってきます」
慣れない下駄を履いて
駅までの道のりを歩く。
髪の毛、崩れてないかな?
大丈夫だよね??
駅前に着くと、
陸が浴衣を着て私を待っていた。
浴衣姿の陸は、普段の陸よりも
断然かっこよくて大人びていた。