「怖いんだ。今日、お前のこと好きでも、
 明日の朝には忘れてる。

 それがだんだん悪化したとして、
 そのうち何も思い出せなくなったとしたら俺・・・」


「うん」



初めて見る。こんな陸。


でも手放しでは喜べない。


だって、こんなにも苦しそうなんだもん。


陸の声が少し震えていた。


泣きそうなのを必死で我慢するみたい。


私はそんな陸を見て一つ深呼吸した。


「ねえ、陸」


「・・・・・」


「キス、してもいいよ」


「え?」


「大丈夫。陸が忘れても、私が覚えてる。
 また陸に思い出させる。


 必ず陸を笑わせてみせる。
 だからもうそんなことで怯えないで?」



そう。何度でも。


私は“嘘”をつき続けるよ。


陸が忘れたって、私には
忘れることすらできないことで
いっぱいなんだから。


「でも・・・
 もし思い出せなくなったら?」


「そうしたら、私がもう一度
 好きになってもらえるように努力する」


「若葉・・・」


「だからキス、しようよ」



自分でも何言ってるんだかわからない。


だけど今、陸を抱きしめてあげたいって思った。


陸の不安を取り除いてあげたいと思った。





「キス、して?」







真夜中の誰もいない場所で、
私たちはキスをした。



唇が微かに触れるだけの、
小さなキスを。