「私ね、陸のことが好き“だった”」


「えっ・・・?」


「陸がどれだけ私を忘れても、
 それでもあなたが好き“だった”」


私はあえて、そう言った。


その言葉に、陸の手がピクリと反応する。


「友達のフリをして、
 陸のそばにいたいと思う時もあったの」


「若葉・・・」


「私たち、嘘ばっかりだね」


本当に、嘘ばかりね。


本当は、好きなくせに。
誰にも渡したくないくせに。
本当は誰よりも側にいたいのに。



お互いがお互いのことを好き合っているのに、
どうしてこうも二人の糸はもつれてしまったんだろう。


「今日で終わりにしたい。
 私は、自分の気持ちに応ええることも、
 陸の気持ちに応えることも出来ない。
 だから、歩夢との幸せだけを、
 楓と3人、家族の幸せを選ぶよ」


「・・・うん」


「さよならね。陸」


「・・・うん」



私の言葉に、陸の手がだんだんと力失せていく。


私が手を離せば崩れ落ちてしまいそうなほどに。




「好き“だった”よ。若葉」


「うん」


「幸せになれよ」


その言葉と共に、陸は手を離そうとした。


そんな陸の手を、
私が引き止めるようにきつく握り直した。


「若葉・・・」





“行かないで”




そう口に出してしまいそう。


私は震える声を振り絞って、口を開いた。




「さよなら」


そうして私の手と陸の手は、
名残惜しそうに離れた。


私は陸の気配が完全に
なくなってしまうまで、その場に立ち竦んだ。


しばらくして、一人になると私は、
しゃがみ込んで泣きじゃくった。