「若葉、ごめん。俺・・・」


陸の声がする。


そうしてその声と同時に、
私の左手に温かい感触が走った。


陸が私の手を握っていた。


「そのままでいいから聞いて。
 俺、これまで何度も若葉を傷つけてきた。
 俺の意思じゃなかったにしても、
 どれだけ謝っても謝り切れないくらい、
 若葉を苦しめた」


「・・・・」


その握られた手に力がこもる。


「だから、今更どうこうなろうとは思わない。
 ただ、俺の気持ちを知ってほしかった。
 それだけなんだ。若葉には、
 新海と一緒に幸せになってもらいたい。
 邪魔をする気なんてないけど、
 それでも、俺のこの気持ちだけは知っておいてほしいんだ」



陸は少し息を切らして話し続けた。


手にはより一層力がこめられた。


「俺はまた忘れてしまう。
 この先もずっと。だから諦めたんだ。
 俺じゃあ、お前を幸せには出来ないって」


「・・・そんな、
 どうしてそういうこと言うの?」


「だって後悔したくないから。
 俺の心の中にはいつだって若葉がいるよ。
 忘れてしまっても、ふとした瞬間に
 若葉のことを思い出してきた。
 
 
 若葉から離れなくちゃいけないと思いながら、
 忘れた“フリ”をしていた時もあった。
 このまま若葉に関わらないほうがいいって
 思って別な女の子と一緒に居ても、
 唯と結婚してみても、
 やっぱり俺はお前を忘れられなかった」


陸は次から次へと言葉を紡いだ。


それならどうして、その嘘を
つき通してくれなかったの?


私は、こんなにも
苦しい思いをしてきたのに。


吹っ切ろうとする時、
大体いつも決まって陸がいた。


陸の言動に一喜一憂する自分がいた。


「若葉の隣にいるのは、
 どうして俺じゃないんだって
 何度もそう思った。だけど、
 俺じゃ無理なんだって痛いほど分かる。
 だから俺は、俺は・・・」



陸は言葉を詰まらせた。


「・・・陸」


私は小さく声をあげた。


握られた手を、握り返して。