幼い頃からの想いを、
完全に断ち切るにはまだまだかかるけど、
私は時間をかけてでも、
この気持ちに蓋をするべきなんだと思う。
歩夢のために、楓のために。
そうして自分自身のために。
「歩夢。早く行くよー?」
「おう」
あれから数ヶ月が経って、
季節は春を迎えた。
今日は陸の退院の日。
私と歩夢は引っ越しの準備を手伝いに、
陸を病院まで迎えに行くことになった。
歩夢が車を走らせてしばらくすると、
病院が見えてきた。
病院の入り口前には、
少し背の高いひょろひょろの
男の人と一緒に、陸は立っていた。
「陸、退院おめでとう」
私と歩夢は陸に向けてそう言った。
隣にいた男の人が軽く会釈をして口を開いた。
「初めまして。“慈愛の家”の
施設長をしてます。西川です」
「初めまして。新海です」
歩夢がそれに合わせて
ぺこりと頭を下げると、西川さんがにっこり笑った。
陸は病院を退院して、
施設に入ることになった。
病院の先生の紹介で、
西川さんの施設に入るように勧められた。
陸は少し不安げに立っていたけれど、
私と歩夢を見るとホッとしたように表情を和らげた。
陸と西川さんを乗せて更に車を走らせると、
1時間で慈愛の家に辿り着いた。
少し爽やかな印象の敷地内は
見ているだけで気持ちが落ち着くような、
そんな感じがした。
「ここが、佐々木さんの新しい家です」
西川さんがニコニコして陸を見つめた。
「新しい、家・・・?」
「部屋は完全個室で、家具も一通り
揃っています。共同なのはトイレとお風呂、
キッチンで、それ以外は君の自由に使うといい
」
西川さんはそう言って
一歩前に踏み出すと、くるっと振り返って笑った。
「ようこそ。慈愛の家へ」
「・・・よ、よろしくお願いします」
陸はゆっくりと頭を下げた。
その背中を私はじっと見つめる。
陸がどこか遠くへ
行くんじゃないかって思うと不安で、心配で。
もう2度と会えないような、
そんな気さえした。