何が何だか分からない。


けれど今目の前にいる陸は、
私のことを覚えている。


何で?


私が傷に触ったから?


「あれ・・・俺、今・・・」


「覚えてるの?ついさっきのこと」


「・・・ああ。このところ、
 様子が変なんだ。
 前より忘れやすくなってる」


この傷が痛むと、
必ず何も分からなくなるんだ。


そう陸は言った。


陸は痛そうに傷をさする。


「病院にも通ってるんだけど、
 どうも原因が分からないんだ。
 多分心因性だろうってことになってるんだけど」



心因性・・・。


私が俯くと、陸は小さく笑った。


「ていうかお前、俺に告ってんの?」


「え?」


「さっき言ってただろ。
 “陸の彼女だよ”って。
 あれ、プロポーズ?」


「なっ、ち、違うよ!」


「照れんなよ」


「照れてない!陸の馬鹿!」


「はは。怒った怒った」



人がせっかく心配してんのに・・・。


陸は大きく笑うと、
ゆっくりと立ちあがって私に手を伸ばした。


「とりあえず、今日はもう帰ろう。
 ずっと浴衣だと疲れるだろ」


「う、うん」


私は陸の手をゆっくりと取った。