「お疲れ様です」


少しだけドキドキしている私の左を、先輩は至って普通に挨拶して通り過ぎて行く。

そして笑って課長らと挨拶を交わし会話を始める。

ほのかな残り香は、京都とは別の香り。

……それだけ?

目も合わせなかった。

一昨日、眩しくて堪らなかった背中をぼんやりと見つめる私。

京都での対応との温度差に唖然とするが、すぐ我に返り静かに席に着き、W課長との会話に耳を傾けながらシール貼りを続ける。

そして三人の親しげな会話を複雑な想いで聞き続ける。


「ついこの間その辺歩いてなかった? 実は、日本が恋しくてしょっちゅう帰国してんじゃない?」


「ないし。姉さん大丈夫? 幻覚? 記憶障害? 更年期入った? もうすぐ四十なんだから気を付けて」