「 お父様。私、しばらく一人暮らしを

してみたいの。 」


私のお話をある程度予測していたであろう

お父様は、優しい表情のまま、

小さく相槌をうち、しばらくの間

無言の時間が流れた。



小さい頃から大切に大切に育てて貰った私は

1人で街中に出たことすらない。


そんな私が一人暮らしなんて、

相当難しいことは分かっている。


それでも1度、この家から離れて見ることも

大切だと思った。


しばらくの沈黙の後、お父様が口を開いた。


「 うん、一人暮らし、ね。

どうしてそう考えたのか、

聞かせてもらえるかな? 」


お父様の穏やかな声に安心する。


「 私ね、小さな夢がたくさんあるの。

恋がしてみたい、とか、

私の作ったお料理を、大切な人たちに

食べていただきたい、とか。

小さいけれど叶えたい夢が

たっくさんあるの。 」


私の言葉に、優しいお顔で

相槌をうってくれるお父様に、

言葉がスラスラと出てくる。


「 でもね、私はその小さな夢すらも

まだ1つも叶えたことがないの。

今までの私は、お父様とお母様に

頼りすぎてしまっていたの。

私はこのたくさんの小さな夢を叶えたい。

お父様やお母様の近くにいると、

私はまたお二人のことを

頼りにしてしまうから。

一度自分の力で、たくさんのことを

頑張ってみたいなと思ったんです。

ダメですか? 」