数日後、政彦の夢枕に白い子猫が立った。
「嘘吐きめ。ここなら、あの猫又もやって来ないだろう」
美代子の検査入院のために病院に付き添っていたが、長時間待たされるうちに眠ってしまったらしい。
「うまく、僕を悪者にしたものだなあ、おい!
 オトナは人間もずるいものだね」
「…僕は嘘は吐いていないさ。
 猫好きにとって、子猫ってのは『カワイイ』という魔力を持っている」
「口の上手いヤツだ。
 じゃあ、僕が赤ん坊扱いされるのはウンザリだってのは何だ?」
「そう思っていない子どもはいない。
 それだけ口達者なら、なおさら」
「…呪ってやる、ってのは」
「オトナにとって、駄駄をこね始めた子供の泣き声・わめき声ってのは一種の呪いだね」
「……」
「とにかく、僕が苦手なのを知ってて猫を拾ってくるのだから、それだけでもうオカシイんだよ!
 …見ていないところで野良猫に餌をやるならともかく。
 それより、なぜ君が、人間界に居たのさ。
 あるいは、美代子を魔界に呼んだのか?」
ニャッ、と一泣きして、子猫は窓から外へ飛び出した。
「猫!」という叫び声がどこかでした。
誰か霊感でも強いコ・メディカルスタッフか患者がいたのだろう。
白昼夢が解けた政彦は足元の文庫本を拾うと、本格的に長いすに横たわって居眠りを決め込んだ。

(おわり)