20分後、政彦は播磨尾猫又の案内で、魔界の入り口に立っていた。
子猫は、リュックに入れて背負うか考えたが、結局抱きかかえて連れて来た。
持ち物は、財布と携帯電話だけ。
「…お前、もう少し、準備とか警戒とか無いの?」
「時間をかけるつもりは無い」
政彦は、子猫をあやしながら、無防備にその辺りをウロウロと歩き回った。
「おいおい…」
播磨尾は、呆れながらも、ノンビリその場に座り込んだ。
彼は、この人間のやり方を知っていたからだ。

辺りに生暖かい風が沸き起こり、巨大な影が現れた。
「我が孫をいじめるのは貴様か…」
現れた魔王は、シルエットだけ見れば、さしずめテーマパークの人気着ぐるみキャラクターのようだ。
そのぶん、頭は大きく、耳の端まで裂けた口なら、人間一人丸呑みも出来そうだ。
「お前、私の妻をさらっただろう。早く返せ」
「…なに、お前、あの女の夫か。
 あの女は、我が孫を誘惑した重罪人だぞ。
 黄昏時は人界も魔界の掟に支配されるのじゃ。
 黄昏時に異界の子供を攫うと死刑なのだ」