私が借りている京都の伏見区のアパートに帰ったのは、夜中の一時ぐらいだった。夜空には弓のような細い月が浮かんでおり、暗くなった京都の街を淡い光で照らしている。

「ふぅ」

私はライターを右手に持ち、タバコの先端に火をつけた。先端から淡い煙がゆらゆらと立ちのぼり、口から煙を吐き出した。

ーーーーーーガチャリ。

そのとき、アパートの玄関のドアが開いた。

「ん!」

吸っていたタバコを灰皿にグリグリと押し付けたあと、私は玄関のドアの方に視線を移した。

開いた玄関のドアの隙間から、ぬっと黒い人の影が現れた。

「え!」

目をかっと見開いた私の視線の先に、中年の男性が見えた。

「好きだよ、千春ちゃん」

私を見て、彼の第一声がその言葉だった。

「えっ!」

彼の姿を見て、私は目を丸くして驚いた。