小学校を卒業した直後、おれの両親が離婚した。

おれにとっては突然のことだったが、思い返してみれば兆しはあった。

深夜トイレに立ったとき、両親の寝室から(いさか)いの声が聞こえてきた。

階下で眠る祖母の耳に入るのを嫌がったためか、二人とも押し殺した声だったので、内容まではわからなかった。

母親の声が大半で、父親のはその合間に口を挟む程度だったが、それでも妙に張りつめた空気はじゅうぶん伝わってきた。

そのうち、中学入試のために塾に通っていたというのに、母親が「中学入試をしなくてもいい」と言うようになった。

たぶん、おれが小学校を卒業するまで、両親は離婚を待っていたのだろう。

それが、おれにとって精神的な負担が軽くて済む、絶好のタイミングだと思っていたに違いない。

一人息子だったおれを父親や祖母は手元に置きたかったそうだが、母親が粘り勝ちしておれを引き取った。

母親は経済的なことを考えて両親がいる実家に戻りたがったが、そこには兄家族が一緒に暮らしていた。

おれは母親の実家近くの小さなアパートに住むことになった。

そして、小学校時代の級友たちには一言も告げず、あわただしく引っ越した。