「ああ・・そうね、10代後半って感じかしらね。」
 10代後半・・・そうか、私はまだ若いんだ。
 そう思ったら、ほんの少しだけど心がほっとする。
 何でもいいんだ。どんなことでもいい。今の私にとって自分のことが何かわかるのが嬉しい。
 いつも通りの問診を終え、先生は病室を出て行った。そして、病室には、また長く静かな時間が流れ始める。
 
 「そっかあ、10代後半くらいかあ。若いんだ、わたし」
 ひとりになった病室では、独り言もやけに大きく聞こえるものだなと思う。
 目が覚めてからはずっと、先生以外の人に会うことはなかった。
 看護師さんもいるのだろうけれど、先生はここには必ず1人でやってくる。
 だから、先生と会う時間以外はいつも1人の時間だった。
 ”孤独”というものは途方もない寂しさを与えるものだと思う。
 これからも、こうやって独りの時間を過ごしていくのかと考えるとぞっとするし、怖くてたまらない。だからかな、今の私は、ほんの些細なことでも自分に関することがわかったことが凄く嬉しいと感じている。
 右手の中でくしゃくしゃになっている「謎」も、自分自身の「謎」も、
 きっと考えたってわかるものじゃない。
 こうやってちょっとずつちょっとずつ見つかっていくものなのかもしれない。  
 遅い歩みでも、いつかきっと答えに辿りつけるのかもしれない。
 いや、そうあって欲しい。
 
 「そう信じたい。」
 ため息と共に呟いた声には、未来への希望が少し滲んでいた。
 
それから、ニ週間。
 私は、まだ少し動きづらい体の機能を元に戻すためにリハビリを行っていた。
 
そんなある日、いつもは外来の方にいる先生がひょっこり顔を覗かせた。
 「あれ?先生どうしたんですか?また問診ですか?」
 いつも来ない時間に先生が来たので、何事かとちょっと訝しげな目線を送ってみる。
 「いいえ。実は貴方に会わせたい人がいるのだけど。」
 先生はチラッとドアに隠れた先を見ると、私にまた視線を戻す。
 「会わせたい人?私に?」
 誰だろうかと思わず考えて苦笑した。何も覚えていないのに。
 
 「ええ。あなたに。入ってもいいかしら?」
 「えっと、あっ、はいどうぞ。」
  そう言うと、先生は手招きをして部屋に入った。