先生はそう伝える私の顔をみると、にっこりと微笑みそして視線を下へと落とした。
 その視線をたどると、先程とっさにメッセージカードを隠した右手があった。その下からちょっとだけ隠し切れなかったメッセージカードが覗いている。
 
 「えっと、これはですね・・・」
 やっぱり、先生に説明すべきだろうか。
 誰宛と書いてあった訳じゃないけれど、勝手に開けて見たことに罪悪感があるし・・・
 もごもご言いながら先生の顔を見上げると、先生は変わらずにっこりしたまま私と視線を合わせた。そのまま黙って私の言葉を待っている。
 別に隠すようなことじゃない。それはわかっているのだけれど・・・

 「病院の中を歩いていた時に拾ったんです。誰かの落とし物かと思ったんですけど、ただのゴミでした。」
 「なんだ、凄く驚いてたから何か凄いものかと思ったわ」
 「あははっ、期待外れですみません」
 「いえいえ。それより体の具合はどう?痛むところとかない?」
 「それが、一日で随分体が自由になりました。体は丈夫みたいです。」
 
 さっきまでの心配はどこへいったのか、口からはスルスルと言葉が出てくる。
 上手くごまかせてるのかな。
 もしかして私、結構・・・嘘が上手なのかな。
 笑顔で話しながらもそんなこと考えている私。
 もう、ついてしまったものは仕方がないのだけれども、やっぱりどうでもいい嘘でもちょっと罪悪感を感じてしまう。
  
 「そう、それは良かった。やっぱり若いっていいわね。」
 そんな私の胸の内を知ってか知らずか、先生はまたにっこりと微笑んだ。
 「えっ?」
 何気に先生が言った言葉に惹かれる。 
 
 「先生!私、若いですか?ねえ、先生、私何歳くらいに見えます?」
 先生は、突然の私の勢いに少し驚いたようだった。
 「そういえば私は幾つくらいなのかなぁって思って。この部屋には鏡がないし、それに・・・それに私・・・自分の年も覚えてないし・・・。」
  段々と声のトーンが落ちてくる。
  そう、私は私の事を何も知らない。
  記憶喪失の現実。