" よつなちぶあらみ

   現代では、それが賢い策となる。"
 
 小さな紙に綺麗に印刷された活字を見つめる。

 (なんだ・・・これ・・・?)
 
 まったくもって意味不明だ。けれど、わざわざメッセージカードに書くくらいだから何かを伝えたいのだろう。多分、”よつなちぶあらみ”という一見無意味そうに見える羅列がキーワードなのだろうが、それが賢い策となる?うーん・・・。
 一つ文字を飛ばしてみたり、反対から呼んでみたりしてみるが、時間は進むばかりで全然これだと思うものがない。
 そうこうしているうちに、夜は更けていき、いつのまにか私は眠りについていた。

 翌日、昨日と同じく気持ちの良い日差しを浴びながら、私は目覚めた。
 寝ている間に誰かが、窓のカーテンを綺麗に開けてくれている。
 そそくさと身支度を整えると、私は昨日のカードを取り出した。
 
 自分の中で考えられることは全部やってみた。
 しかし、どうにも答えに到着しない。考えれば考える程、本当は意味なんてないんじゃないかとも思った。
 でも、なんだかワクワクしてたまらない。記憶をなくす前の私は、好奇心が旺盛だったのだろうか。あーでもない、こーでもないと考えるのが楽しくてたまらない。小さな子供が、初めておもちゃを与えられたかのように、私は謎の暗号に夢中になっていた。
 
 「それ、なあに?」
 
 不意に頭の上からふってきた声に体がびくんと反応する。
 見上げると、のぞきこむような二ノ宮先生の顔がすぐ間近にあった。
 「う、あっ」
 驚いて、おもわずうつむいていた上半身がのけぞってしまう。
 「あっ」
 私の驚いた様子に先生も驚いたらしい。
 小さく声を上げたあと、軽く私の方に傾いていた体がまっすぐな線へと変わった。
 「ごめんなさいね、驚かせてしまったみたいで。問診に来てみたら、なんだか必死に紙を見てうんうん唸っていたから、つい気になっちゃって・・・。お邪魔だったかしら?」
 「あっ、ぜっ・・んぜんっ、だいっだいじょうぶですっ」
 申し訳なさそうな先生の顔をみたせいで、慌てついでに勢い良くどもる私。
 「誰もいないと思っていたから、急に声が聞こえて驚いただけです。」