なんでだろう
 
 どうしてだろう
 
 ふるふると唇が小刻みに震える。
 頭の中には何もない。
 
 不安と恐怖が体中を支配していく。
 唇の震えは全身に回り、ベットが震えとともにカタカタときしむ音をたてる。
 
 怖い。怖い。怖い。怖い。
 
 何もわからない。
 何も覚えていない。
 
 頭の闇はどんどんと心を侵略していく。

 私どうしてここにいるの?
 私の名前は何?
 私に家族はいるの?
 私どうなってしまったの?
 私は誰なの?
 私・・・わたし・・・どうすればいいの・・・
 
 誰か教えて!
 
 ねえ、誰か!!!
 
 その時、バタンという音とともに勢い良く部屋のドアが開いた。振り向こうとした目の端に白い人の姿が映る。

 「大丈夫ですか!」
 その女性は、飛び込んできた勢いのまま私に駆け寄り、両肩を強く掴んだ。
 「落ち着いてください。どこか痛みますか?大丈夫ですか?」
 掴まれた両肩を強く揺すられて、私は自分が叫んでいたことに気付いた。
 「だ・・だいじょうぶです・・」
 返答すると、彼女はホッとしたように掴んでいた両手の力を緩める。 
 「そう、良かった。叫び声が聞こえたから何かあったのかと思って。」
 そう話ながら彼女は"ふっ"と少し微笑んで、私の両肩から手を離した。そして乱れた布団を整えながら、優しく話を続ける。
 「大きな外傷はなかったのだけれど、あなたここに来てから一ヶ月ほどずっと眠ったままだったのよ。目覚めてよかったわ。身元を証明するものがなくて、ご家族にも連絡できなかったの。本当に良かったわ。」
 「あ・・の・・」
 声をかけると彼女は満面の笑みで私の顔を見た。その顔がとても優しくて、ほっとするとともに、さっきまでの不安が次々と口から出てくる。
 「ここ、どこですか?私、どうしてここにいるんですか?私、誰なんですか?私に何が起こってるんですか?」
 息を吸う間もなく私は彼女に質問を続ける。
 彼女は一瞬驚いた表情をしたが、ぎゅうっと私の手を握り、一つ一つゆっくりと質問に答えてくれた。