「うん。俺と一緒に住もう!」
 「!!」
 更に驚いた私は言葉がでなかった。
 今彼は何を言った?
 聞き間違い?
 「えっと、ごめんなさい、聞こえたの、もう一度、あの、今、一緒にって、住む所の」
 考えがまとまってなかったせいか変な日本語になってしまった。
 けれど、彼は察してくれたようで、笑いながら私に話してくれた。
 「ああ、ごめんごめん。いい部屋が見つかって契約してきたばかりだったんで、俺もちょっと興奮しちゃってて。いきなりすぎたよな。一緒にっていっても部屋はそれぞれにちゃんとあるんだよ。なんていったっけこういうの。えーっと・・・」
 笑顔が消え、少し首をかしげてしかめっつらになったあと、
 「そうそう!ルームシェアっていうの?あれあれ!!家賃だって心配しなくていいよ。俺、働いてるし大丈夫だからさ。出世払いってことで!ねっ!」
 そういって彼はさっきよりも笑顔を少し増量して私を見つめる。
 「そんな・・・そこまでしてもらったら悪いよ。」
 彼の申し出は凄く嬉しい。出来ればすぐにうんと言って彼に甘えたい。
 けれど、命を助けてくれたばかりか、この病院の生活の中で、彼には心をどれだけ救われてきたか。それは、他の人が聞けば他愛もない会話なのだろうが、いつも私の心を温めてくれた。彼の顔を見るだけで、幸せな気持ちになれた。それだけでも、本当にありがたいと思っていたのに、これ以上甘えるのは厚かましいのではないか、と私の心が言う。
 「あの、仕事、もちろん頑張って探すつもりだけど、私みたいなのを雇ってくれるかどうか・・・。家賃・・・いつ払えるかわからないし迷惑もかけてしまうよ・・・」
 彼の負担になる、そう思うと胸がツクンと痛む。
でも、そんな私の返事を跳ね除けるかのように、彼は大きな手のひらでぐしゃぐしゃと私の頭をなでまわすと、
 「だからさあ、言っただろう?いいんだって。」
 そう言って、うつむき加減の私の顔をのぞきこんだ。
 その顔が思ったよりも近くて、すごく恥ずかしくて、たぶん真っ赤な顔をしていただろう私は、「よろしくお願いします」というのが精一杯だった。