聞こえるのは不規則な泡の音。

深く体が沈んでいく。

私はどこまで落ちていくのだろうか。

もうこの世界にはいれないのだろうか。

最後に覚えているのは水色が黒く変わるさま―

そして・・・



 どこからか、鳥のさえずりが聞こえる。
 目を開けようとして、私はまぶたの重たさに驚いた。
 
 (どうしたんだろう、わたし・・)

 簡単には言うことを聞いてくれないまぶたを意識を集中して持ち上げる。ゆっくりと目を開けると、やや黄色に変色した天井が視界いっぱいに広がった。
 
 (ここ、どこだろう・・・)
 
 「いっ・・た・・」
 とりあえず起き上がろうとして、私は自分の体の異変に気が付いた。
 体がコンクリートで固められたように硬い。指一本を動かそうにも、けだるくて力が入らない。少しでも自分の置かれている状況を把握しようと、きしむ首をゆっくりと動かし、周囲を目で確かめる。
 
 そこは、殺風景な部屋だった。
 置いてある家具といえば、使い古された感があちこちに見える木製の小さな棚。
 そして、私がいるベットとベット脇に置かれた小さなテーブルだけだった。
 年季を感じさせる部屋と家具の中で、私にかけられている掛け布団のカバーだけは異様に真っ白で、反射する光に私は思わず目を細めた。
 今は昼時なのだろうか。元気な太陽の光が差込む壁際の窓には、水色のカーテンが付けられており、半分開いた窓から時折入る風で軽やかに揺れながら、布団の真っ白いカバーに波のような影を映しだしている。
 そして、窓の下に置かれた小さなテーブルの上では、一輪のガーベラがこちらを向いて咲いていた。
 
 (病・・院・・かな?でもどうして・・・。
  私なんでここにいるんだっけ・・・)
 
 頭がぼうっとする。
 それになんだろうこの喪失感。 
 私は、頭の記憶のカケラを探し始めて気付いた。
 全てが霧のように脳内に浮いている。
 何かを思い出そうとするけれど、考えようにもどうにもまとまらない思考に苦しさを覚え、私は頭を両手で強くはさんだ。
 なんとか記憶のカケラを探しだしたい。けれど、霧はとても濃ゆくて全く何も見えない。
 
 いや、これは霧じゃない。
 
 闇だ。