わたしがまだ姫と呼ばれていたころ


「さっきの石牢の映像、覚えてる? あなたが流した涙を見て、おかあさんの悲しげな顔が一瞬で、ぱぁっと明るくなったでしょ?」

「うん、覚えてる」

「うちに帰って、おかあさんの顔を見てごらん。今朝とは違うはずだから」

「先生、ありがとう。今日ね、ひとつは頭の痛みをとってほしくて来たって言ったでしょ。もうひとつはね、小さいころから、わたしって何のために産まれてきたのかな、って……。ずっと生きる意味がわからなくて。でも、やっとわかったわ。今日が誕生日だっていうことも、意味のあることだったのね」

先生は黙ったまま、にこやかに何度も頷いた。