(………も、もっと大きい声を出さないと)


わかっているのに、のどがきつく閉じられたみたいに、詰まって感じる。

声を出そうとすればするほど、上手く声が出ない。

小説を書くときはスラスラ出てくる言葉が、なにも浮かばない。


本当は出るのだ、もっと大きい声。

でも、教室でみんなの前だと思うと、その声はどんどんとしぼんでしまう。


そしてそんな私をみんなが笑って、わざと無視しているのではないか……なんて。

自意識過剰なことすら思う始末だ。


「……あ、あの……ノ、ノート………っ」


「ーーー笠原さん!」


「……!」


それはとてもよく響く声。

教室の喧騒すらも一瞬、おさまった。


声の主は、扉側の一番前。

私の方を真っ直ぐみているクラスメイト。


(……冬室くん)


冬室くんの少し黒目がちな目が、私を見ていた。


「……笠原さん。ごめん、よく聞こえなくて。もう一度言ってくれる?」


……教室はそれまでの騒々しさから一転、様子を伺うように静かになる。

冬室くんの難聴はみんなが知っているので、彼の邪魔にならないよう気を使っているのだ。

みんなの注目は冬室くんへ……そしてすぐに私へ。

冬室くんが聞き取れなかった私の言葉はなんだと、一斉にこちらへ意識をむけてきた。