「……おう、笠原!今、いいか?」
「え?」
ふらふらしている途中、数学教師に声をかけられた。
昨日、スマホを没収したあの教師だ。
「笠原、お前スマホ取りに来なかっただろう」
「……すみません。ちょっと用事があって……」
「今から取りにこい。こっちもああいうものを、いつまでも保管するわけにはいかないんだ」
「………はい」
なら、はじめから没収しなければいいのに。
…なんて自分の違反行為を棚にあげた勝手なことを考えながら、私は教師についていった。
「……全く、笠原に限らず、いまどきの生徒はみんなスマホ、スマホ………。そんなに楽しいのかね」
「………楽しいとかじゃないと思います」
「ああ?」
「………なにも」
楽しいとかじゃない。
ただ、もうそれはそこにあるもの。
なくてはいけないもの。
大事な………居場所だった。