私たちは中庭のバスケゴールの前までやって来た。

そこにはまだ誰の姿もない。


「………ごめん、突然連れ出して。でも、笠原さんなんだか様子がおかしかったから………」

「…………」

「………なんか。最近、少し変じゃないか?大丈夫?」

「………冬室くんこそ大丈夫?」

「え?」

「病気のこと」

「………!」


冬室くんの顔色が明らかに変わった。


(………ああ。やっぱり)


やっぱり冬室くんは、再発を隠しているんだ。

そう確信した私は、一歩、彼へと踏み出す。


「………冬室くん。私の小説、読みに来てくれているでしょう?」

「小……説………?」


冬室くんの顔に、またしても動揺が浮かぶ。

もう間違いない。

あの人は、冬室くんだ。


「……あのね。私ね、本当は………」


私は、これまでのことを冬室くんに話した。

投稿サイトで小説を書いていること。

実話と偽り、病気の物語を書いていること。

そして、そこに冬室くんと思われる人がコメントをくれたことを。


「じ、実話だってうそをついたのは、ごめんなさい。でも、私……小説で支えになりたいって本当に思っているの……。冬室くんのこと、その………病気のこと……応援したいの………」

「…………笠原さん」


冬室くんが私を見つめる。

驚いた色を浮かべて。

戸惑ったように瞳を揺らして……


そして


「それ、僕じゃないよ」


ため息をつきながら、そう言った。