「…うん。右目を失明した主人公の話」

「……!」

「実は野田秀樹も右目を失明しているんだ。だから、ある意味実体験を元にしているってこと」

「…………」


手にある本をしげしげ眺める。

冬室くんがこの本を好きだというのは、単純な面白さだけでないのは間違いないだろう。


「………野田秀樹は、言葉遊びが多いんだけど

『ライトアイ』は右目だけでなく、『正しい目』ってニュアンスも持っていて

同じように、『左目』と『残された目』の2つの意味を持つ『レフトアイ』って言葉も出てくるんだ」


冬室くんは、右目を隠すように手を当てた。


「右目を失明した主人公が、

もう正しい目で見ることはできない。これからは残された目で見る

……みたいな風にいうのが印象的で……」

「そう……」

「でもきっとさ、何が正しいかなんて、わからないんだよね。
右目がない分視界はせまいけど、それでも何も見えないわけじゃない……」


そこまで話して冬室くんはハッとした表情になる。


「ごめん、なんか語っちゃった。うざいよね」

「ううん……すごく面白い話だと思った」

「本当?……ならよかった」


そう言った冬室くんの横顔は、本当に安堵したみたいで

私は……なぜか寂しさを感じた。


それは、彼の視界を本当に共有できないと気づいたからかもしれない。