「……僕も、バスケ部だったときは、それこそ朝から晩まで練習ばかりしていたよ。
それでやっと、そこそこってくらいだった」


真っ直ぐゴールを見据える冬室くん。


「………だけど、今思えば、あの頃は楽しかったな」


そうつぶやくと、きれいなフォームでシュートを放った。

ボールは美しい放物線を放ち、まっすぐにゴールへ。

そして…


ーーーガンッ!


少し調子外れの音をたてて、ゴールに入ることなく、跳ね返り落ちていった。


「………やっぱり、駄目か。昔みたいにはできないな」


冬室くんは恥ずかしそうに笑う。


「……すごくきれいなフォームだったけど……」


私は思わずそう言っていた。

それは本心だった。

冬室くんは『ありがとう』と微笑み、少しだけ表情をくもらせた。


「……でも、それでも、バスケ部だったころとは違うからね」


その言葉は、単純に時の流れについて言っているのか。

それとも、……彼の体のことなのか。


右側の視力と聴力を失い、ほとんど変わらず生活しているように見えても、小さなズレは毎日起こっている。

それは、毎日練習していたバスケのシュートも思うようにできないように。

バランスや、ちょっとした目測の誤り、そんなものが少しずつ彼の世界を歪ませているのだろうか。

そうして、これからも彼はその中を生きていくのだろうか。


「…………」


私はかけるべき言葉も見つからず、冬室くんの左隣にたつ。

そして、見よう見まねでシュートを打った。

それはもちろん入るわけがなく、跳ね返り、転がっていく。


「……冬室くん、教えてくれる?」


そう聞くと、冬室くんは驚いた顔を見せたあと、深くうなずいた。