「いや…無理じゃないけど。あぶねーよ、フユは」

「そうだよ、バスケって毎年ぶつかったりでケガ人いるじゃん」


冬室くんの近くの席の子が、慌ててフォローに入る。

それでも冬室くんは手を下ろそうとしない。


「ケガは他の種目も出てるじゃないか」

「そうだけどさー。まだバレーとかのが安全だと思うぜ。フォローにも入りやすいし」

「……うん、でも……僕、昔バスケ部だったから……」

「病気になる前だろー」


後ろの席の男子にそう言われ、冬室くんは一瞬……本当に一瞬だけど、さっと無表情になった。

いつも微笑んでいることが多い彼には珍しい無表情。

それはひどく痛々しくさえ見えた。


でも、ごく一瞬だったので気づいたクラスメイトはそれほどいないかもしれない。


冬室くんは次の瞬間には見慣れた笑顔を浮かべ、それまで挙げていた手を下ろした。


「……んー、そうか。それもそうだよね。わかった。やめとく」

「だろ。な、オレとバレーしようぜ。フォローしてやっから」

「わかった。ありがとう」


冬室くんがそううなずいたのをきっかけに、どこか緊張していた教室の空気がゆるむ。

なりゆきを見守っていた実行委員もまた声をはりあげ司会を始めた。


「……はい!ではバスケも希望者が多いので話し合ってください。それで決まらなければジャンケンしてください。

じゃあ、次は………」


何事もなかったかのようにホームルームを進めていく教室。

だけど私は……

冬室くんのことをまだ見ていた。

もう何のつらさも感じさせない涼しげな横顔を。