(……ひっ)


みんなの視線に一瞬ひるむが、これはチャンスでもある。

今なら静かな状態で話を聞いてくれるから。

私は声の震えを必死におさえながら、うつむきがちに自分の英語のノートをかかげた。


「……え、英語の課題を……集めます……」


それはやはり小さな声になってしまったが、今度はいくらかみんなに響いたようだ。


「何だってー?」
「課題提出だって。英語!」
「あの人に出せばいーの?」


なんて、聞こえた人から伝言ゲームのように伝わっていき、少しずつ英語の課題が私のもとに集められた。


(……あー、良かった)


どうなるかと思ったけれど、ひと安心だ。

あのとき、冬室くんが聞き返してくれて良かった。


(……冬室くん。そういえば、あれって私を助けてくれたのかな)


みんなが私の話を聞くように、わざと大きな声で聞き返してくれたとか。

でも、確かにあの状況で私の声を聞くのは冬室くんには難しかっただろうし、難聴の彼は普段から声が大きい傾向にある。


だからあれが故意なのかどうかよくわからない。


(……うーん)


もし助けてくれたのならお礼を言うべきだけど…。


ちらり、と冬室くんの様子を伺う。

その涼しげな表情の横顔からは彼の真意は読み取れなかった。