あの日、それは私が海を嫌いになった日。




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とても波が高い日だった。
海は荒れ狂い、風が強く吹いていた。


誰もが危険な海から距離を取り、海辺を走る道路は閉鎖となっていた。


そんな中、一人の女性が海辺へと走った。
周りの住民はそれを全力で止めた。



「なに馬鹿してんだい!」

「こんな荒波の中海に近づいたら 死んぢまうよ!」




しかし、一人の女性はその言葉を聞いたあと
大声で叫んだ。





「「 私の娘が 海から帰ってきてないの! 」」





その必死な大声に周りの人々は動きをぴたりと止めた。
そして、一人の女性はそのまま荒れ狂った海へと姿を消した。















翌日、娘を探しに飛び込んだ女性が帰ってくることはなかった。


ただ、穏やかに変化した海辺に打ち上げられたのは
飛び込んだ女性が探していた娘だった。












そう、それが私。

海で記憶を失って
海で母親を失って
海で幸せを失った





「 わたしは海が嫌いだ 」