前に教室で抱きしめられたときも、次の日には距離を置かれて話すことさえできなくなって。


だから、またそうなるのがこわかった。


期待して裏切られて、そのくりかえしだったから。



「兄貴のこと知ってたんだね?」



そう聞かれて戸惑った。


もしかしたら早苗さんから聞かされたのかもしれない。



「俺が年上だってことも……」



涙があとからあとからあふれて、うまく返事ができなかった。


代わりに彼の胸の中でこくんと小さくうなずく。



「俺……こわかったんだ……また大切な人を失ったらって……俺といることで丸山を傷つけることになったらって……今まで周りの人に迷惑ばっかりかけてきたから、自分が信用できなくて……」



ごめん……そうしぼりだすように言った三浦くんの体は小さくふるえていて。


ずっと大人だと思っていた三浦くんも、まだ私たちと変わらない高校生なんだってことを思い出した。


こわかったって三浦くんは言った。


それはきっと正直な気持ちで、失うのがこわいから最初からなかったことにしようとしてたんだって気づく。



「姉さんに言われたんだ。俺が幸せにならないと、姉さんも母さんも幸せになれないって……それでもいいの?って……ハハッ……ずるいよね?」



それは早苗さんの精一杯の愛情だ。


三浦くんの背中を必死に押して、あなたはまだ子供なんだからって、まだまだ大人に甘えていいのよ?って。



「だから俺、もうがまんするのやめるよ」



そう言ったと同時に私の体から三浦くんがそっとはなれた。


涙でぐちゃぐちゃな顔が外気にさらされて冷たくなっていく。


目の前にはやさしくほほえむ三浦くんの顔。


その顔がスッと真面目な顔にかわって私の目を真っすぐに見つめた。



「俺も、丸山が好きだよ?……まだ間に合うなら、俺と……付き合ってくれる?」



とたんにきゅーっとしめつけられるように胸が苦しくなった。


止まったと思った涙がまたあふれ出す。


返事なんてできる状態じゃなくて鼻をすすりながらしゃくりあげる私に、三浦くんの手がそっと伸びてくる。


顔を両手ではさみこんで親指で涙をぬぐいながら、「泣きすぎ」って笑って言ったあと、三浦くんの大きな手が私の頭をいつまでもやさしくなでていてくれた。