そのとき、おーい!と、校庭の方から羽生くんを呼ぶ声がした。



「あ、やっべ!もう行かなきゃ!じゃあね?丸山」



先輩らしき人に、今いきまーす!と大きな声で返事をすると、もう一度ふりかえってバイバイと手をふる。


私も同じように手をふるつもりだった。



「えっ?」



なのに、なぜか私の手は羽生くんのジャージのすそをつかんでいて……


部活にもどろうとしてた羽生くんはびっくりしたように立ち止まって私を見た。



「丸山?」



ハッとしてすぐにジャージから手をはなしたけど、羽生くんはそのまま私が口を開くのを待ってる。



「あ……のね?あの……いっつもなんか助けてもらってるのに、お礼とかもできてないから……その……」



ごにょごにょと言い訳みたいにそう言いながら、結局なにが言いたいのか伝えられないでいると、じっと聞いていた羽生くんの顔がパァっと明るくなった。



「もしかして!買い物付き合ってくれるってこと?まじで?」



こんなによろこばれると失敗だったかな?と気がひける。


でも、お礼したい気持ちは本当だったから、私は黙ってコクンとうなずいた。



「やっった!ありがとー!じゃあさ、またメールで連絡する!ほんとありがと!じゃあ、またね!」



ほんっとにうれしそうに羽生くんは校庭へと走って行った。


さっき呼んでた先輩らしき人に頭を小突かれてあやまる姿が、なんだか可愛いなと思える。


さっきまで三浦くんと重たい会話をしていたのがウソみたいに、気持ちは軽くなっていた。