「えっと、あの……」



コロコロと転がっていった消しゴムは、私の前の席の方へと消えていった。


体をずらしてそっちの方向を指そうとしたとき――



「先生、ここに落ちてました」



そう言ってスッとあげられた手。


そこには私の消しゴムがしっかりとにぎられている。


先生がそれを取りに行き、消しゴムを私に手渡してくれた。



「すみません。ありがとうございました」



「もう、落とすなよ?」



そう念をおされてコクンと小さくうなずくと、先生はまた前にある黒板の方へと歩いて行った。


私はというと、先生のことなんかもう頭になくて、ドキドキが止まらない。


シャーペンの彼の初めて聞く声。


少し高めの優しそうな声。


まさか彼が私の消しゴムをひろってくれるなんて思いもしなかった。


ただの消しゴムが特別になったような感覚だ。



――お礼、言ったほうがいいよね?でも、自分から話しかけるなんて、はずかしすぎるかも……