初恋マニュアル

愛里のママは、あとからそっちにいくわね?と言って、キッチンの方へと引っ込んでしまった。


案内しなくてもわかってるって思ったんだろう。


でも初めて来たみたいに足取りは重くて、階段をのぼる自分が自分じゃないみたいな感覚がする。


やっと部屋の前までたどりつくと、その前で足をピタリと止めた。


中から女子特有のかんだかい笑い声が楽しいそうに聞こえてくる。


それだけで私の足は動かなくなった。


ドアノブに手をかけてみるけど、なかなかドアを開けることができない。


和やかな雰囲気に私なんかが入っていったら、空気を悪くするんじゃないかと思ったからだ。


部屋の前で立ちすくんでいると、いつの間にきていたのか、うしろから愛里のママに声をかけられた。



「あら?美羽ちゃん。どうしたの?入らないの?」



どうやら私の分の飲み物を持ってきてくれたらしい。



「あ……いえ……その……」



気まずさに思わず口ごもると、愛里のママはさっさと私の前をすり抜けて、愛里の部屋のドアをいとも簡単に開け放った。