「昨日のテレビ、見た?」
「見た見た、面白かったよね」
「えー、私見てなーい」

 ざわざわとざわつく教室や廊下、男子生徒や女子生徒、それぞれで固まって喋る話し声が聞こえてくる。そんな彼等の横を通り過ぎてさっさと廊下を歩く私は、いつもこの学校では一人だ。鞄を肩に掛けて、自分の教室へと続く廊下を歩いていく。

 ある男子生徒の前を通り過ぎると、去り際に「あ」と彼は声を漏らした。けれど、私に言った、とは気付かずに、私はその場を通り過ぎて、教室に入っていった。

「晴斗ー、それ誰の?」
「うっわ、ピンク!変な趣味してんなー」
「いやちげーよ、俺のじゃねぇよ」

 そんな男子生徒達の話し声が、私の耳に届くことは無かった。