「話しておきたいことがあるの」
そう切り出して、私は8年前の事故のことを話した。

大学2年の冬、聡くんとドライブに行った帰り。
落石が前を走ってた車を直撃した。すごい音がして、地面からドンって響いた。

腰が抜けたみたいに動けなくなった私に救急車を呼ぶよう指示して、聡くんは壊れた車に走っていった。
赤ちゃんの声がしてた。
「リノ!手伝って!!」

私はその時のことを断片的にしか覚えてない。
多分、ギクシャクと言われるままに動いて、後部座席から何とか赤ちゃんを引っ張り出したんだろうと思う。ガラスが割れてて、チャイルドシートのベルトを外からうまく外せなくて焦れたのは覚えている。水色の服で男の子なんだと思ったこと、首がグラグラで、しかも大泣きで暴れて抱くのがこわかったことの記憶はある。

横に赤ちゃんのママが乗ってて、そのときはまだ息があった。
運転してたご主人は動く気配もなかった。
奥さんはどうしても車から出せなくて、窓の外から赤ちゃんを見せた。

「赤ちゃん、助かってますよ!」

その人は必死に手を伸ばして赤ちゃんに触れた。
でも、じきに力がなくなって、それっきりだった。