しばらく翔さんの腕の中で休んでいたら、おもむろに告げられた。

「鈴音ちゃん、きょうはウチにおいで」

「何!?急に…」
びっくりして翔さんを見上げた。
「体調悪くて、気持ちも不安定なのに、ひとりにさせられない。
さっきの寝言みたいな別れ話なんか、聞くつもりないんで」
「でも…怒ってるでしょ…?別れるとか、結局また試すみたいなこと言ったから…」
「怒ってはいない。試すのはやめてって思うけど、俺が正解を出しつづけりゃいいだけだ。
でも、まず相談してくれ。鈴音ちゃんがひとりで考えるとロクでもない結論出すからね」
「…気をつけます」
「惚れた弱みかな、鈴音ちゃんが何言ってもかわいいって思えるよ」
顔を見上げた。目が合うと、笑って私の頭をポンポンとした。

「こんないい男ほかにいないよ?もう観念しなよ」
「観念って…」
「8時に迎えに来る。家、片してくるから、絶対だよ」


そのあと翔さんは私と病室まできてくれて、千絵さんと望を見舞ってくれた。
望には翔さんのものだという中学校の理科便覧を持ってきてくれていた。
もとより千絵さんはわかっているし、望がどう捉えるかはわからないけど。

複雑になって当たり前と言った翔さんの言葉は、私の心にストンと落ちた。
心配してもしなくても、なるようにしかならないのかもしれない。