「それにしても」と、ため息交じりに翔さんが言う。
「大体、鈴音ちゃんは俺の気持ちを軽く見てるよね」
呆れたような、きっぱりとした口調で言われる。

「そんなことない。ありがとうって思ってる。でも、めんどくさい思いをさせてるってわかってる」
「俺は好きな人と普通に恋愛してるつもりだけど?」
「なんで私なの?高校のときの気持ちがつづいてるの?」
「ん~、当たらずとも遠からず、かな?」
「高校のときは、何かきっかけでもあった?」
「ん~、鈴音ちゃん、長距離選手だっただろ?いっつも、黙々と走りこんでたじゃん。俺はサッカーのために走ってたけど、そんなに走るの好きじゃないから、走ること自体を楽しめないんだ。だから、鈴音ちゃんがひたすら走ってるのを見て、すごいなぁ、とか何を考えながら走ってるのかなって、気になっていったんだ」
達成感とか、無になる感じとか、マラソンの魅力はいっぱいなんだけど。
「何も考えたくなかったから走ってたのかも…。がっかりさせた?」
「そんなことない。結局、鈴音ちゃんに目が行ったってことだけだ。走ってる人なら他にもいっぱいいたけど、気になったのは鈴音ちゃんだけだった」

10年前の高校で、走ってた自分と、目を留めてくれた翔さんを想像してみた。告白までしてくれた人。
今、その人と一緒にいる現実がなんだか不思議。

「前に10年越しって言ってたけど、付き合った人もいたでしょう?」
「まぁ、さすがに10年何もなかったとは言わないけどね」