それはもう、見事な迄に晴れの日だった。きっぱりとした青空。時折見える白い雲が、その青を強調しているかのようにも思えた。
桜も未だに完全には散りきってはいないというのに、随分と日差しはきつく、夏が間違って来てしまったか?と、おかしな心配すらする程であった。
僕は、桜の花びらを掴もうと手を伸ばす。しかし花びらは手をするりと避け、何語も無かったかのように、ひらりひらりと落ちていった。

『【僕】!こんなところに居たのかよ!早く行こうぜ!』

『図書委員会のポスターなんだけど、【僕】くん、何かいい案無いかな?』

『【僕】。そこは、その公式じゃなくてこっち。ややこしい時は意味を考え見るといいよ。』 ..........................

そんな級友の声が聞こえた気がして、振り向く。だが、いるはずも無い。ここは、長期入院患者用の病棟で、学校ではないのだから。
しかし、そうだと分かっていても寂しいものはやはり寂しく。
ただ、暗いやつ、と思われがちな僕の、控えめに呟いたつもりの言葉を零さずに、面白い子と評価するようなちょっと変わってて優しい級友。学校の制度で、原則クラス替えがないものだから、いつ戻ってもいいんだ、と言う嬉しさに小さく笑みを浮かべる。どうせ、戻れやしないのだけど、なんていう自嘲を交えながら。
やっぱりちょっと日差しがきついな。額に手を当て、影を作ってみると、誰にいうでもなく呟き、動き出しにぎぃっと音を出す車椅子のタイヤを回した。