「後は頼む」

 副社長が言うと、栗林さんは頭を軽く下げ、部屋を出て行った。


 すると、副社長はふ―うっと、ため息を着き、今までビシッと構えていた姿勢を崩し、ソファーに背中をもたれかけた。


「なんだよ。明美の仕業だって言えば良かったじゃないか?」

 ニヤリとした副社長は、さっきとは全くの別人だ……


「な、なんですかいきなり! 証拠も無いのに、この場で言う訳にはいきません」


「ほんとに、真面目な奴だな…… だけど、このままだと、お前が責任取らされる事になったかも知れないんだぞ」

 副社長は少し呆れた顔で言った。


「そ、それは、仕方ないです。私の不注意には違いありませんから……」


「ふう―ん。じゃあ、首になってもいいんだ?」


「えっ」

 私は唇を噛みしめた。


 その途端、副社長の体がグッと前に出て、私の顔に近づいてきた。


「じゃあ、首にはしない…… その代りに俺と付き合ってよ」

 副社長の顔が、どんどんと近付いて来る。


 近くで見ると、本当に整った綺麗な顔だ。

 熱い視線に、引き込まれそうになってしまう……


 カァーッと、顔が熱くなって来て、思わず副社長の胸を両手で突き飛ばしてしまった。


「何ですか、いきなり! こんな事までして、この会社にいようとは思いません。私、そんな女じゃありません!」

 何故だか、涙がポロポロ落ちて来て、副社長室を飛び出した。


「ち、違う…… そうじゃない!」

 副社長の声が背中に聞こえたが、振り向かずに走った。


 ああ…… 

 ヤバい、本当にクビだ……


 だけど…… 

 副社長があんな事をするなんて…… 


 もう、どういう人なんだか分からないよ……