診察が終わり、病院のロビーで私は呆然と座っていた。


 缶ジュースが目の前に差し出された。


 河合さんが、何度も断ったのだが、付き添ってくれていた。

「すみません……」


「いや……」

 河合さんを巻き込んでしまった気がする……


「あの……」


「いいよ。何も聞かない……」


「ありがとうございます。でも、この事は誰にも……」


「ああ。分かった。ただし条件がある」

 河合さんは、チラッと病院の入り口を見て言った。


「えっ」


「一ノ瀬だけには、ちゃんと話した方がいい…… 一人で抱えそうだったから、呼んだよ」


 病院の自動ドアが開き、香が走って入ってきた。


「湖波…… 何があったのよ?」


 私は、香の顔を見るなりポロポロと泣き出してしまった。

 河合さんの優しさにも、涙が出る……


 河合さんに家まで送ってもらった私は、香に全てを話した。

 少し、気分が落ち着いてくる。


「湖波は、このまま副社長と別れていいの?」


「仕方無い事だってある…… そもそも、副社長と出逢えたのは奇跡んなだから…… 運命には勝てない」


 私は、弱々しく笑った。


「まあ、勝てないならしょうがないけど、自分に正直でない答えは、いつか人を傷付けてしまうんじゃないのかな?」


「えっ」


「きちんと、別れも言わずに、他の男の人をチラつかせるのはどうかと思うけど?」

 香の言葉に胸が痛む……


「うん…… 私、自分の事ばっかりだね……」


「その、逆でしょ! 全く!」


 香は、少し怒たように言いながら優しく私を見た。