「どうしたんですか?」

 声を掛けてきたのは、河合さんだった。


「ちょっと、気分悪くて、少し休めば大丈夫です」

 私は、また無理矢理に笑顔を作った。


「無理しないで、顔、真っ青だ」

 河合さんが手を差し伸べてくれた時……



「湖波!」


 走って近づいて来たのは副社長だった。

 走って、副社長の元へ行きたい気持ちをぐっと堪える。


 そして……


 私は河合さんの手を取った……



 副社長の顔が引きつったのが分かった。


「少し気分が悪いだけですから…… 河合さんが送って下さるので大丈夫です。わざわざ、声を掛けて下さり、申し訳ありません……」


 私は頭を下げると、河合さんに支えられ立ち上がった。




「わかった……」


 副社長の重い声がしたが、私は振り向かなかった。



 副社長の姿が無くなったのを確認すると、私は河合さんの手をさっと離した。


「すみません…… 後は大丈夫ですから」

私は河合さんに頭を下げた。


 しばらく河合さんは、副社長の向かった先を見ていたが……


「そりゃないよ。せっかく、森田さんと一緒に居られるんだから…… ちょうど車を近くに止めてあるから…… 病院まで送ってくよ」


「い、いえ、本当にすみせんでした。大丈夫ですから」


 必死に断るが、思うように体が動かずふらついた……


「ほらね……」



 仕方なく河合さんの車で、病院へと向う事になってしまった。