朝から気分がすぐれない。

 まあ、夕べは殆ど眠れなかったのだから仕方ない…… 

 だるい体を、必至で動かし書類を纏めた。


「森田さん、書類を副社長室までお願いします」

 総務の入口に立っていたのは、栗林さんだ。


「あっ…… はい」

 取りあえず返事をする。


「どうしたんですか? 顔色悪いですよ?」

 栗林さんは、本当に心配そうに私を見た。


「い、いえ、ちょっと寝不足なだけですから」

 私は無理矢理に笑顔を作ってみせた。


「とにかく、書類を副社長室にお願いします」


 栗林さんは納得出来ないようで、珍しく笑顔無く言った。



「はい」

 私は頭を下げた。



 副社長はずるい。

 私が断れないように、仕事を押し付けるんだから……


 でも、今日は無責任だけど副社長室へ持っていくのはやめよう……


「佐藤君、申し訳ないけど、これ、社長室に届けてくれる?」

 私はクリアファイルに入った書類を差し出した。


「ええ! 森田さんが行かなくていいんですか?」

 後輩の佐藤くんはちょっと不安そうな顔をした。


「ごめん…… 気分悪くて。今日は早退させてもらうわね……」


 私が顔を上げると……


「森田さん、大丈夫ですか? 顔、真っ青ですよ」


「うん…… ごめん……」


「僕、持って行きますから。早く病院行って下さい」


「ありがとう……」


 私は、帰る支度を始めた。



 会社のビルを出ると、秋とは言っても、まだ熱い陽射しに益々気分が悪くなり、たまらず近くのベンチに腰をおろした。