「はっきり言います。私は颯太さんと婚約します。
 どうしても、しなければならないんです。私の会社秋吉グループは、今、颯太さんの会社の助けが必要なんです。そして、今後の会社の将来を考えると、颯太さんの会社にとっても、秋吉グループは大きな助けになるはずです。
 だから…… 私は颯太さんと婚約します」


「そうですか……」

 私は、何も言えない……


「でも、颯太さんの好きな人はあなたです。私がいくら思っても、届かない…… だから、私は、颯太さんと結婚します。でも、あなたは、颯太さんとこのまま関係を続けて頂いてかまいません」


「えっ? どういう事?」

 私は驚いて、秋吉さんの顔を見た。


「きっと、颯太さんはあなたと別れて、私と婚約などしてくれません。でも、秋吉グループを私は守りたいんです。だから……」


 私は彼女の想いに、胸が潰れそうになった。

 彼女も必至で会社を守ろうとしている。


 そして、副社長の事を本気で好きなんだ……


 私が、このまま副社長の側にいても、この大きな会社の支えになどならない……


 どうするべきなのだろうか?

 しばらく沈黙が続く……



「わかりまました…… 副社長とは別れます…… そんな関係を続けても誰も幸せになんてなれない」

 

「えっ?」

 今度は、秋吉さんが驚いて私を見た。


「緒戦、私は副社長と吊り合う相手じゃない。あなた達は、婚約する運命なのよ。私には奇跡が起きただけ…… 奇跡なんて何度も起きる物じゃない…… 」


「どういう事ですか?」


「副社長も、私も、それほど本気じゃなかったのよ……」


 私は、冷静を装って口にした。


「そ、そんな……」

 秋吉さんの顔が曇った。


「あなが……もっと、嫌な人なら良かった…… 」

 私の口から、ポロリと出てしまった。
 彼女がもっと嫌な女の人だったら、どんな事があっても副社長は私を愛していると言えたかもしれない。
 だけど、彼女や副社長の抱えてるおおきな物や立場は、私にはどうする事もできない。
 別世界の出来事だ。



「えっ? 私は、会社の為にあなたに颯太さんとの別れを迫っているんです。嫌な女です」

 秋吉さんは、唇を噛みしめた。



「じゃあ、コーヒー奢ってもらおうかな?」

 私は、泣きそうな彼女に向かって言うと席を立った。


 店の外を出ると、夏も終わり、少し冷たい風が頬に当たった。

 副社長のマンションを見上げる。

 二人で過ごした時間が、目の中に次から次へと映し出される。


 副社長が、倉庫に閉じ込められた私の元に窓から入って来た姿が……


 入社試験の前に現れた、副社長の姿が……


 全て、私だけのものだった……


 もう、二度と戻る事の無い時間…… 



 鞄の中でスマホが鳴る……

 そのまま私は、駅へと向かって歩いた。